アグネス・チャンさん インタビュー

2012.11.15

歌手のアグネス・チャンさんは、2007年9月、乳がんと分かり、聖路加国際病院で手術を受けました。その後もコンサート活動を活発に行っていますが、いまも闘病中です。がんの発見から治療まで、さまざまな医療スタッフに支えられたそうです。当時の様子と現在の気持ちを聞きました。
(チーム医療推進協議会 相談役 小島正美)

Q.いつ、どういうきっかけで乳がんと分かったのですか。

2007年9月19日朝、ソファーで寝転がっていたとき、右胸にニキビのようなしこりがあるのを発見しました。近くの産婦人科クリニックで超音波検査をしたら、精密検査が必要と言われ、2日後、聖路加国際病院へ行きました。医師から「組織を取って調べましょう」と言われ、ストローのようなチューブを胸のしこりの部分に差し込まれました。20分ほどでしたが、すごく不安でした。検査の結果、乳がんと診断されたのです。

Q.どんながんだったのですか?

粘液の中にがん細胞が浮いているという「粘液がん」でした。乳がん全体の中でも3%くらいの珍しい型だそうです。幸いにも早期発見でしたから、初期でまだ小さながんでした。けれど、「早い方がよい」と言われ、翌週には手術を受けました。
その日は10月1日。乳がんの早期発見・早期治療を啓発する運動として知られる「ピンクリボンの日」でした。私が命を救ってもらったのは早期発見・早期治療のおかげだと、しみじみ感じています。

Q.乳がんと分かって、どんな気持ちでしたか。

「どうして私が乳がんなんだろう?」と心は相当に揺れました。親類にがんになった人はいないし、酒、たばこもやりません。「タフネス」といわれていたほど健康には自信があったのに、「どうして私が?」という気持ちでした。
その一方で、三男(当時小学5年生)が15歳になるまでは、なんとしても生き延びたいという気持ちが強くありました。
手術のあとも、コンサートの日程はたくさん組まれていました。私がしっかりしないと回りの人たちまで元気がなくなってしまう。「私には回りの人たちを支えていく責任もあるといった強い気持ちで自分を元気づけました。

Q.メディカルスタッフと関わり、印象に残ったことは。

触診・超音波検査・細胞の検査・カウンセリング・麻酔などを受ける中でさまざまな専門職の人たちが私のために骨を折ってくださいました。一つひとつの専門職の名前を正確に挙げることは難しいですが、「私の命はチーム医療によって支えられているという実感を強く持ちました。
チーム医療のスタッフが多かったので、最初のうちはその都度、胸を見せるのに抵抗感があったくらいです。手術のあと、2日間くらいは食事ができなかったこともありましたが、栄養に詳しいスタッフ(協議会注:管理栄養士)が親切に相談に乗ってくださいました。

手術後の約2カ月間、放射線治療を受けました。毎朝7時台に病院に行きました。待ち時間があり、患者同士で仲良くなって、お互いに励まし合うこともありました。放射線技師から、元気づけに飴だまをもらったときはとてもうれしかったです。
クリスマスには看護師さんたちがサンタクロースの格好をして盛り上げてくれました。
本当にいろいろな人たちのおかげでよくなったと感じています。

Q.メディカルスタッフには、いろいろな相談ができます。

例えば、病院の相談室にいるソーシャルワーカーには「治療選びの考え方や「治療費の相談」「会社に病気のことをどう言えばいいか」などについても話すことができるんですよ。
私の場合、高額な検査も含め、さまざまなアドバイスを受けました。あれこれ考えたすえに、遺伝子検査を受けました。その結果、遺伝子に変異があったため、治療効果があることが分かりました。ソーシャルワーカーのような存在は、以前はよく知りませんでしたが、とても役に立つものだと思います。

Q.メディカルスタッフからの救われた言葉はありますか?

「もし再発した場合には、それが早くても遅くても、生存率はだいたい同じです」
という主治医の言葉は、いまも印象深く残っています。それを聞いたときはちょっと暗くなりましたが、本当のことをおっしゃっていただいたことに感謝し、覚悟のような気持ちができました。
がんになってみて、人生が豊かになったと感じています。人生で無意味なことはありません。朝、元気に起きることができるだけでも感謝の念を忘れないなど、一日一日を大切にしています。いまの自分のほうが好きなような気がします。

Q.これからチーム医療に期待することは何ですか。

私は本当にチーム医療に助けられました。病院に行ったときは、いつも自分が大切にされていると感じていました。いろいろな専門職種の人たちが支えてくださったので、何か間違いが起きるような気はしませんでした。

私はちょっと特別なよいケースだったかもしれませんが、全国のどの病院にも、私のような「チームに支えられた医療」が広がっていくのを期待しています。私は患者会には入りませんでしたが、患者会とチーム医療の連携も大切だと思います。

 

(編集後記)
アグネス・チャンさんが「メディカルスタッフの名前を一つひとつあげることは難しい」とコメントされています。実際、患者さんとチーム医療の話をすると、「自分のチームにどんな職種がいるのか。その職種は何をしてくれる人か」とよく聞かれます。ある患者さんがこう提案してくれたことがあります。「病院では手術の前に説明書を配布する。手術の前は時間があり、不安なので、その説明書にチーム医療やメディカルスタッフにはどんなことを聞いたらいいか、書いてあるといいね」。あるいは、別の患者さんは「ベッドサイドを回診するとき、自己紹介で名前を聞きますが、職種名やどんなことを聞いたらいいかも教えてほしい」と言っていました。こんなふうに、メディカルスタッフと患者さんとの距離が縮まるといいですね。(広報班)

 

                                                                      

プロフィール
歌手・エッセイスト
アグネス・チャン
香港生まれ。1972年「ひなげしの花」で日本デビュー。一躍、アグネス・ブームを起こす。
上智大学国際学部を経て、カナダのトロント大学を卒業。1984年 国際青年記念平和論文で特別賞を受賞。1994年 米国スタンフォード大学教育学博士号(Ph.D)取得。その後、多数のボランティア活動、文化活動にも積極的に参加する。1998年、日本ユニセフ協会大使に就任。2006年「Forget Yourself」で全米歌手デビュー。2008年、全国112ヶ所で行われるコンサートツアー「世界へとどけ平和への歌声」を成功させ、第50回日本レコード大賞の特別賞を受賞。現在は芸能活動のみならず、エッセイスト、日本ユニセフ協会大使、日本対がん協会「ほほえみ大使」など、知性派タレント、文化人として世界を舞台に幅広く活躍している。