また仲間と一緒に働きたい

右腕の切断。
それは、どんな人にとっても受け入れがたい事実。そして、彼にとっては一層、つらい事実だったはずだ。
大工である彼にとっては。

奥さんをはじめ、誰もが思ったかもしれない。
彼は、大工には戻れないのではないかと。

しかし、彼はいった。
また現場に戻りたい。大工として働きたい。

その真剣な表情と、ことばの強さ。
医療スタッフは、やろうと思った。

彼の意思と願いを尊重し、リハビリのゴールを大工への復職とした(そのときチームは)。
右腕は確かに失った。
だからといって、大工に戻れなくなったわけではない。
大工が扱いやすいよう、専用の義手はつくれないか。
のこぎりなどの大工道具を扱いやすいよう、改良してはどうか。

スタッフは総力をあげて、ゴールを目指した。
なにより、患者本人が本気だった。

だが、すべてがうまくいくわけではなかった。
身体的な回復は順調になされたが、義手や大工用具の改良などはうまくいかなかった。
精密な動きを必要とする作業に、道具の改良だけでは順応できなかった。

復職は難しい。患者本人がそれを痛感していただろう。

医師は彼に告げた。
大工職への復帰は困難だと思われます(そのときチームは)。

だが、それで終わりではない。 医師は、ことばをつづけた。

事務職への転換はどうでしょうか?
確かに大工は難しいです。でも、大工仲間のみなさんと一緒に働くことはできます。

彼のゴールは、そのとき変わった。
もう一度、仲間と働くこと。

彼は、大工復職を目指しただけあって、熱心にリハビリに取り組んでいた。
その結果、義手を扱っての生活レベルは、高かった。
事務職の復帰なら、問題はない。

医療ソーシャルワーカーは、彼の勤務していた会社へ事務職への転換での、雇用継続を交渉した。
会社にとって、障害者の受け入れは一度もなかった。
しかし、彼を快く事務職として受け入れた。
彼の熱意さを知っていたからかもしれない。

彼は、いまもその職場で働いている。
大工には戻れなかったけれど、仲間と一緒に働いている。
笑いながら。

チーム医療は、患者さんの願いをたいせつにします。
そして、新たな道を提案することもできます。

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補足

※1 大工復帰のためにスタッフはさまざまな形でサポートを行いました。

【理学療法士】義手を自由に使える筋力等の向上に努める
【作業療法士】病棟生活の自立を当面は目指す
【MSW】会社側との復職についての相談を開始。労災補償について労働基準局と打ち合わせ
【義肢装具士】大工仕事に適応した義手を製作

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※2 中間カンファレンスの報告から復職断念へ。他職への復帰が考案された。

【医師】大工仕事が可能か否かの判断が必要
【看護師】病棟生活は左手で十分にこなしている。
【臨床心理士】復職についての困難性を感じ不安感が強くなっている。
【理学療法士】鉋やノコの練習を行うも非常に困難性あり
【作業療法士】鉋やノコの改良等を行うも復職の困難性高い
【MSW】大工への復職が困難か否かの結論を求める
【義肢装具士】義手の改良を行うも大工仕事までには至らず

▼報告を受けての方針

【医師】現職復帰の困難性を説明
【臨床心理士】復職断念による精神的サポート
【理学療法士】義手を生活レベルの活用へ方向転換
【作業療法士】左手による事務作業の向上に最大努力
【MSW】会社と配置転換による事務職での雇用継続を交渉
【義肢装具士】装飾用義手の作成開始

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